史実とは異なる「もう一つの韓国」
人気が高いIUとビョン・ウソクが主演する『21世紀の大君夫人』。このドラマは、今の韓国に王朝が残っていたらどうなるか、という設定のもとで進められている。朝鮮王朝の歴史にとても興味を持っている私(康大地)にとっても、このドラマは注目度が本当に高かった。(ここから先は、ドラマのあらすじに関する記載を含みますのでご注意ください)
IUが演じるソン・ヒジュは、財閥キャッスルグループのビューティー部門を仕切っているが、会長の愛人の娘だった。庶子という身分で自分が不当に差別されていると感じたヒジュは、王族としての高貴な立場を手に入れようと、ビョン・ウソクが演じるイ・アン大君との結婚を狙っていた。イ・アン大君のほうにもメリットがあったため、2人の意見は一致して契約結婚をすることになった。
現在の王室はイ・アン大君の甥であるイ・ユンが幼くして国王となっており、その後見人となっているのが大妃(テビ)のユン・イラン(コン・スンヨン)だ。彼女としては、イ・アン大君に王位を奪われるかもしれないという危機感が根強い。それゆえ、ユン・イランは常にイ・アン大君を監視している。そして、隙があれば彼の失脚をもくろんでいる。
このような展開でドラマは進んでいくが、何と言っても、今の韓国に王家が君臨しているという物語が奇抜である。ここで歴史を振り返ってみよう。1392年に始まった朝鮮王朝は、1910年に朝鮮半島が日本の植民地になった時点で滅亡している。つまり近代史において、朝鮮半島には1910年以降、王朝が存在していないのだ。しかし、『21世紀の大君夫人』はまったく異なる歩みを見せている。ここが史実との違いだ。
憲法を最高法規とする民主的な政治体制
朝鮮王朝の歴史に戻ると、最後の国王になった純宗(スンジョン)は27代王だった。ドラマはそれから115年後の世界を描いているのだが、イ・ユンは2022年に即位して33代王となっている。彼の父親は32代王のイ・ファン。2012年に即位したが、2022年に崩御してしまった。この国王は非常に性格が弱く、王位を守り抜く自信がなかった。それゆえ、弟のイ・アン大君に譲位しようとしたのだが、それが実現しないまま火災によって急死している。
こういう複雑な事情が『21世紀の大君夫人』で詳細に描かれていくのだが、そもそも、王朝がまだ存続しているという設定になると、政治的に難しい問題が起こってくる。私が特に触れたいのが、王家の権力基盤である。
朝鮮王朝は国王を頂点とする中央集権国家であり、政治体制としては完全な王政であった。
しかし、『21世紀の大君夫人』が描く現代では、立憲君主制という政治体制を敷いている。つまり、国王はいるが、政治的には憲法を最高法規として民主的な政治体制になっている。こうなると、王家には政治的な権力がない。あくまでも国民の象徴的な存在なのだ。
その中で、イ・アン大君は国民から圧倒的な支持を受けている。若くてルックスも抜群である。人気が出ないはずがないのである。しかし、イ・アン大君が国民の支持を集めれば集めるほど、大妃のユン・イランは不安が募る。国王の座を息子から奪われるのではないかという恐怖があるからだ。
王朝を振り返るようなストーリー構成
実際、過去にそういう出来事があった。6代王の端宗(タンジョン)が叔父の首陽大君(スヤンテグン)から王位を奪われているのだ。首陽大君は7代王の世祖(セジョ)となり、後に端宗を死罪にしている。これほど非道な王位強奪事件が過去にあったので、ユン・イランとしても極端に警戒しているのである。
『21世紀の大君夫人』はロマンチック・コメディとなっているが、朝鮮王朝の歴史をしっかりと踏襲している。韓国も経済的に豊かになり、過去の歴史を好意的に振り返ることができるようになってきた。朝鮮王朝は国教を儒教としており、倫理的にも長幼の序をしっかり守ってきた王朝だった。そんな伝統を韓国の人たちも決して忘れてはいない。
それゆえ、『21世紀の大君夫人』はノスタルジックに王朝を振り返るようなストーリー構成で成功している。私自身もこのドラマの王朝の描き方に懐古的な親しみを持った。
文・写真=康 大地(こう だいち/韓流ジャーナリスト)


