時代劇『トンイ』が今もなお圧倒的な人気を誇る理由は何なのか

韓国時代劇
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『トンイ』は、単なる「身分の低い少女が王の寵愛を受けて出世するシンデレラストーリー」にとどまっていない。そこにあるのは、人間の持つ善意と悪意、そして生き残るための壮絶な権力闘争だ。正室や側室たちのプライドがぶつかり合い、その背後でうごめく派閥争いの重厚さが、ドラマに深い陰影を与えている。視聴者は、きらびやかな宮廷の裏に隠されたドロドロとした人間模様に引き込まれ、その中で己の信念を曲げずに生きようとするトンイの姿に、現代社会を生き抜く自分自身の姿を重ね合わせているのではないだろうか。美しいだけではない、泥臭くも力強い「人間の生」が描かれていることこそが、本作が時代を超えて愛され続ける最大の理由であると私は確信している。

史実が語る「淑嬪・崔氏」のミステリーとドラマの対比

ドラマの中でトンイは純真無垢で聡明な女性として描かれているが、実際の歴史に名を残す「淑嬪(スクピン)・崔(チェ)氏」(1670年生まれ)の生涯を紐解くと、より生々しくミステリアスな実像が浮かび上がってくる。

彼女がどのようにして王宮に入り、19代王・粛宗(スクチョン)の目に留まったのか。ドラマチックな逸話として有名なのは、王宮の水汲み係だった彼女が、廃妃となった仁顕(イニョン)王后の誕生日に一人で祈りを捧げていたところを粛宗が見初めた、というものだ。しかし、このロマンチックな出会いは信憑性が弱いとされている。

当時の政治状況を鑑みると、より現実的な推察が成り立つ。当時、側室の張禧嬪(チャン・ヒビン)が長男を産み、正室の仁顕王后が廃妃に追い込まれたことで、張禧嬪を支持する南人派が実権を握り、仁顕王后を推す西人派は没落の危機にあった。劣勢に立たされた西人派が、起死回生の策として粛宗の好みに合う女性を意図的に送り込んだのが淑嬪・崔氏だったのではないか、という見方だ。もしこれが事実であれば、彼女は最初から高度な政治的思惑を背負った「刺客」のような存在だったことになる。

その後、彼女の周囲では劇的な事件が次々と起こる。1694年には張禧嬪の兄から毒殺されそうになり、それが引き金となって張禧嬪は降格、仁顕王后が復位を果たした。西人派は見事に巻き返しに成功したのである。さらに1701年に仁顕王后が亡くなると、淑嬪・崔氏は「張禧嬪が王后を呪詛していた」と粛宗に直接告発し、宿敵・張禧嬪を死罪へと追いやったのだ。

しかし、最も興味深いのはその後の展開である。最大の政敵を倒し、後の21代王・英祖(ヨンジョ)となる息子まで産んでいたにもかかわらず、彼女は王妃に昇格することなく、なぜか王宮の外へ追放されてしまう。粛宗は新たに別の正室を迎え、彼女に対して急に冷酷な態度をとるようになったのだ。ドラマでは美しく描かれている両者の関係だが、史実の裏には、権力を巡る疑心暗鬼と、歴史書には記されない複雑でドロドロとした愛憎関係があったに違いない。この「史実の余白」こそが、底知れぬ想像を掻き立ててくれるのである。

圧倒的な魂の共鳴!ハン・ヒョジュの神髄ここにあり

このように、背筋が凍るような権力闘争と謎に満ちた生涯を送った淑嬪・崔氏。この複雑な背景を持つキャラクターに血を通わせ、視聴者の心を鷲掴みにしたのは、紛れもなく主演ハン・ヒョジュの圧倒的な演技力である。

私が本作で最も感動し、心を震わせたのは、ハン・ヒョジュの芯の強い表現力だ。彼女の演技は、大げさに泣き叫んだり怒りを露わにしたりするような分かりやすいものだけではない。むしろ、理不尽な運命に直面した時の、ほんのわずかな瞳の揺れ、抑えきれずに震える唇、そして声のトーンに滲む微かな哀しみ。そうした極めて繊細な表情の変化を通して、トンイの内に秘められた激しい感情の波が痛いほどに伝わってくるのである。

特に、大切な人々を守るために非情な決断を下さなければならない場面や、粛宗との愛と立場の間で引き裂かれそうになる場面で見せた彼女の演技は圧巻の一言だった。画面越しに彼女の哀しみや葛藤が直接流れ込んでくるような錯覚に陥り、思わず息を呑み、涙腺が崩壊させられたのは私だけではないだろう。史実の淑嬪・崔氏が抱えていたであろう「言えなかった本音」や「孤独な闘い」を、ハン・ヒョジュは全身全霊で代弁していたように思えてならない。

以上のように、史実が持つミステリーと過酷さを知れば知るほど、その中で輝きを放ったヒロインの姿がより一層愛おしく感じられるはずだ。

ハン・ヒョジュの魂を削るような名演とともに、一人の女性が歴史の荒波をどう生き抜いたのか。史実とドラマの狭間にある「真実の愛と葛藤」に思いを馳せながら、ぜひ本作の深い沼にもう一度浸ってみてはいかがだろうか。

文章執筆=康 熙奉(カン・ヒボン/作家および韓流ジャーナリスト)

写真撮影=井上 孝(フリーランス・カメラマン)

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