醜い権力闘争の渦中
斬新で独創性に富んだシナリオ、映像の隅々にまで美意識が宿る洗練された演出、そして、素晴らしい俳優陣。これら3つの要素が高度なバランスで融合し、非の打ち所がない名作として語り継がれているのが『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん』である。
物語の屋台骨を支えるのは、名優イ・ソンギュンと圧倒的な表現力を持つIUの2人である。イ・ソンギュンが演じているのは、建設会社で部長の職に就くパク・ドンフン。彼の置かれた現実は決して明るくない。大学時代の後輩が若くして社長の座に上り詰めた一方で、彼自身は窓際部署へと容赦なく追いやられてしまったのだ。その結果、まるで生気を失ったうつろな瞳で出社を続けていた。
ある日、彼の元に身に覚えのない多額の賄賂が突如として届けられる。この不可解な事件を境にして、ドンフンは会社を揺るがす醜い権力闘争の渦中へと深く引きずり込まれていく。
裏表のない真っ直ぐな人間性
このドンフンと同じ職場で派遣社員として働いているのが、IUの演じる孤独な若い女性ジアンである。彼女は亡き父親が残した借金の返済に苦しめられていた。
そんな彼女に目を付けたのが社内の覇権を握る社長一派。彼らは生活に困窮するジアンを巧妙に取り込み、反対派であるドンフンの弱みを握ろうと画策する。結果としてジアンは、ドンフンの携帯電話に盗聴アプリを仕掛け、彼の日常を監視するという危険な裏仕事を強要されてしまう。
しかし、この盗聴行為が思わぬ心の変化をもたらす。ドンフンの私生活の音声を毎日密かに耳にするうちに、ジアンは彼の裏表のない真っ直ぐな人間性に触れていくことになる。このような人間模様が交錯しながら、物語の序盤はドラマチックに展開していく。
一方で、ドンフンを取り巻く家族の姿も非常に味わい深く描かれている。彼には2人の兄弟がいる。パク・ホサンが演じる長男のサンフンは、事業に失敗して借金の山に埋もれている。さらに、ソン・セビョクが扮する三男のギフンは落ちこぼれの映画監督だ。3人それぞれが人生の大きな挫折を味わっている。それでも、兄弟の絆は驚くほど強い。よくつるんで、酒を酌み交わして互いを慰め合う。彼らの間に流れる無償の家族愛や地元を愛する素朴な思いが画面いっぱいに描かれている。
ドラマの持つ豊かな人情味
この『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん』という作品が根底で伝えているメッセージは力強い。自らの力だけでは到底抜け出せないような境遇に閉じ込められた人々。それが、互いに励まし合いながら、再び顔を上げて新たな人生の1歩を踏み出す。その勇気をもたらしてくれるのが、このドラマの真骨頂だ。
なお、個人的にドラマの中で一番好きなキャラクターは、三兄弟の母親である。名女優のコ・ドゥシムが演じている。
この母親は、三兄弟を全員大学まで卒業させた。そのことを何よりも自慢に思っていたはずだった。しかし、現実には長男が脱サラに失敗して借金を抱え、三男も映画監督を目指したものの挫折してしまった。挙句の果てに、長男と三男は実家に居候する始末だった。母親は非常に苦しい思いを重ねてきたのだが、唯一の希望の星が二男のドンフンであった。
そのドンフンが、ついに大企業の常務にまで昇進する。彼の常務昇進のお祝いが、仲間たちの集まる酒場「ジョンヒの店」で開かれた。そのときの母親の嬉しさは格別であった。「みんな仲間を呼べ!今日はごちそうするから!」と叫んだときの深い喜びを、画面越しに肌で感じたほどである。そのときばかりは、ドンフンも本当に親孝行をしたと感心させられた。
韓国の母親は息子への溺愛ぶりが強烈である。それだけ男の子は母親の愛情をたっぷり受けて育つのだが、特にドンフンは学業成績と性格が良くて母親にとっても「自慢の息子」だった。そういう背景がよくわかるので、「常務昇進パーティー」はドラマの中で最大級の盛り上がりとなった。あのシーンの中に加わりたかった、と思った視聴者も多かったことだろう。
こういう心温まるエピソードが随所に織り込まれていることも、『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん』というドラマの持つ豊かな人情味なのである。
文章執筆・写真撮影=康大地(韓流ジャーナリスト)



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