【歴史は繰り返す?】王朝へのノスタルジーを刺激する『21世紀の大君夫人』!

韓流ラブコメ

朝鮮王朝の歴史に深い関心を寄せる私(康大地)にとって、近年の韓国ドラマが描き出す「もう一つの歴史」は、常に興味深い考察対象である。その中でも、圧倒的な人気を誇るIUと、飛ぶ鳥を落とす勢いのビョン・ウソクがダブル主演を果たした話題のドラマ『21世紀の大君夫人』は、特筆すべき注目度を誇る作品だ。(※本稿はドラマのあらすじや歴史的背景に関する詳細な記載を含んでいるため、未視聴の方は留意されたい)

本作は、「もしも現代の韓国に王朝が存続していたらどうなるか」という、大胆かつ魅力的なパラレルワールド(並行世界)の設定のもとで物語が進行していく。完全なるフィクションでありながら、随所に実際の朝鮮王朝の歴史的エピソードや儒教的価値観が散りばめられており、歴史愛好家の視点から見ても非常に奥深いストーリー構成となっている。

【あらすじ:野心と孤独が交差する「契約結婚」】

IUが演じる主人公のソン・ヒジュは、国内屈指の巨大企業である「財閥キャッスルグループ」のビューティー部門を統括する、有能で美しき若きリーダーである。華やかな世界で成功を収めているように見える彼女だが、その出自には暗い影が落ちていた。ヒジュはキャッスルグループ会長の愛人の娘、すなわち「庶子」だったのである。

現代の韓国社会においても、そして何より血統を重んじる財閥一族の中において、庶子という身分は彼女に不当な差別と冷遇をもたらした。どれほど能力を示そうとも、正妻の子供たちからは見下され、一族の正当な後継者として認められることはない。己の生まれに対する強いコンプレックスと、理不尽な扱いへの怒りを抱えたヒジュは、誰もがひれ伏すような「絶対的な身分」を渇望するようになる。それが、王族としての高貴な立場を手に入れることだった。

彼女が目を付けたのが、ビョン・ウソク演じる王室の直系、イ・アン大君(テグン)との結婚である。一方でイ・アン大君もまた、王室内部の複雑な権力闘争の中で、自らの身を守るための強力な後ろ盾や、世間の耳目を逸らすための隠れ蓑を必要としていた。かくして、自らの野心のために王族の肩書きが欲しいヒジュと、王室内の牽制のために打算的な結婚を求めていたイ・アン大君の利害は完全に一致し、二人は愛なき「契約結婚」へと踏み出すこととなる。

【キーワード解説:ドラマを深く理解するための歴史用語】

ここで、本作の世界観や登場人物たちの複雑な立場をより深く理解するために、重要な歴史的キーワードをいくつか解説しておきたい。

  • 大君(テグン):国王の正妃(本妻)から生まれた王子の称号である。側室から生まれた王子が「君(クン)」と呼ばれるのに対し、大君は極めて正当で高貴な血統を持つ。それゆえに王位継承権の上位に位置し、場合によっては現国王の最大の政敵とみなされる危険な立場でもある。
  • 大妃(テビ):先代国王の正妃であり、現国王の母、あるいは祖母にあたる女性を指す。王室内の女性(内命婦)のトップとして君臨し、特に国王が幼い場合には「垂簾聴政(すいれんちょうせい)」を行って絶大な政治的権力を握ることが多い。
  • 庶子(しょし):正室以外の女性(側室や愛人)から生まれた子供のこと。朝鮮王朝時代には「奴婢従母法」などの身分制度により、庶子は厳しい差別を受け、官職への登用も制限されていた。ヒジュが抱える苦悩は、この歴史的な差別の構図を現代の財閥に置き換えたものである。

【史実とフィクションの交錯:1910年以降の「もう一つの近代史」】

このような魅力的なキャラクターたちが躍動する本作だが、何と言っても最大の魅力は「現在の韓国に王家が君臨している」という奇抜な歴史的イフ(if)の構築にある。ここで、実際の朝鮮半島の歴史を少し振り返ってみよう。

1392年に李成桂(イ・ソンゲ)によって建国された朝鮮王朝は、約500年以上にわたって独自の文化と中央集権的な政治体制を築き上げた。しかし、近代化の波に乗り遅れた王朝は、第27代国王である純宗(スンジョン)の治世における1910年、日本による韓国併合(朝鮮半島植民地化)によって完全に滅亡した。つまり、実際の歴史において、朝鮮半島には1910年以降、王朝というものは一切存在していないのである。

しかし、『21世紀の大君夫人』の世界線はこれとはまったく異なる歩みを見せている。植民地支配や朝鮮戦争といった史実の激動をいかにして乗り越えたのかは作中の想像に委ねられているが、この世界では王室が見事に存続しているのである。

ドラマにおける現代の王室の状況は以下の通りである。

  • 第32代国王 イ・ファン:2012年に即位。心優しくも極めて気弱な性格であり、過酷な王室を維持する重圧に耐えかねていた。優秀な弟のイ・アン大君への譲位を画策していたが、2022年に不慮の火災事故により急死(崩御)する。
  • 第33代国王 イ・ユン:亡きイ・ファンの息子。父親の急死に伴い、幼くして王位を継承した現在の国王。
  • 大妃 ユン・イラン(コン・スンヨン):亡きイ・ファン王の妻であり、幼き現国王イ・ユンの母。息子の後見人として実権を握る。
  • イ・アン大君:イ・ユン王の叔父。

【立憲君主制下の権力闘争と「癸酉靖難」のトラウマ】

王朝が現代まで存続しているという設定において、最も興味深いのがその「政治体制」の描かれ方である。史実の朝鮮王朝は、絶対的な権力を持つ国王を頂点とした完全なる王政・中央集権国家であった。

しかし、『21世紀の大君夫人』が描く現代韓国は、イギリスや日本と同様の「立憲君主制」を敷いている。すなわち、憲法を最高法規とする民主主義体制が確立されており、国王や王族には直接的な政治的権力が与えられていない。彼らはあくまで「国家と国民の象徴的な存在」として位置づけられているのだ。

直接的な政治権力がないとはいえ、王室が持つ「権威」と「国民に対する影響力」は絶大である。とりわけ、イ・アン大君はその若さと抜群のルックス、そして洗練された振る舞いによって、国民から圧倒的な支持を集めている。現代のアイドルやトップスターをも凌ぐ人気を獲得しているのである。

しかし、イ・アン大君が国民の熱狂的な支持を集めれば集めるほど、王宮の奥深くで不安を募らせている人物がいる。それが大妃のユン・イランである。彼女の心の中には、「有能で人気のある叔父が、いずれ幼い息子の王位を奪うのではないか」という強迫観念に近い恐怖が渦巻いている。それゆえ、彼女はイ・アン大君の一挙手一投足を常に監視し、少しでも隙があれば彼の失脚をもくろんでいるのである。

彼女のこの極端な警戒心は、単なる被害妄想ではなく、朝鮮王朝の凄惨な血の歴史に裏打ちされたものだ。歴史上、実際に同じような悲劇が起きているのである。

  • 歴史の符合:端宗と首陽大君の悲劇 15世紀半ば、第6代王の端宗(タンジョン)はわずか11歳で即位した。しかし、彼の叔父であった首陽大君(スヤンテグン)は、幼い王を補佐するという名目で政治の実権を握り、やがて「癸酉靖難(ケユジョンナン)」と呼ばれる血生臭いクーデターを起こして政敵を次々と粛清した。最終的に首陽大君は甥から王位を強奪して第7代王・世祖(セジョ)となり、端宗を僻地へ流刑にした挙句、賜薬(毒薬)を与えて死に追いやったのである。

このあまりにも非道な王位強奪事件の記憶が王室の歴史に刻み込まれているがゆえに、ユン・イランは「第2の世祖」を生み出さないよう、狂気にも似た執念でイ・アン大君を警戒し続けているのだ。

【現代韓国社会に息づく儒教的価値観とノスタルジー】

『21世紀の大君夫人』は、財閥の庶子と孤独な王子による契約結婚から始まるロマンチック・コメディという軽快なエンターテインメントの枠組みを取りながらも、その骨格には朝鮮王朝の歴史的な因果や、韓国社会の底流にある文化を見事に踏襲している。

韓国は凄まじいスピードで経済成長を遂げ、物質的に豊かなIT大国となったが、その一方で過去の歴史や伝統を改めて好意的に振り返り、再評価する余裕も生まれてきた。朝鮮王朝は国教として儒教(朱子学)を採用し、数百年にわたって「長幼の序」や「忠孝」といった倫理観を徹底して守り抜いてきた国家であった。現代社会がどれほど西洋化・近代化されようとも、そうした儒教的な伝統や血縁に対する意識は、韓国の人々の無意識の深層に今もなお決して忘れられることなく息づいている。

それゆえに、『21世紀の大君夫人』が描くパラレルワールドは、単なる荒唐無稽なファンタジーとして消費されるのではなく、視聴者の心に「古き良き伝統」への郷愁を呼び起こす。本作は、ノスタルジックに王朝の美意識や倫理観を振り返りつつ、それを現代の価値観(財閥内の権力闘争や個人の野心など)と巧みに融合させるというストーリー構成において、見事な成功を収めていると言えるだろう。

私自身も、ドラマの随所に散りばめられた歴史へのオマージュを読み解きながら、この美しくも切ない現代の王室の描き方に、深い懐古的な親しみと共感を覚えたのである。史実とは異なる「もう一つの韓国」の物語は、私たちが歴史から何を学び、何を未来へと受け継いでいくべきかという問いを、エンターテインメントの輝きの中で静かに投げかけているのである。

文章執筆・写真撮影=康 大地(こう だいち/韓流ジャーナリスト)

康大地

2008年から韓流専門誌で執筆と編集を長く担当。特に『愛してるっ‼韓国ドラマ』誌において、韓国ドラマのレビュー、韓流イベントの取材、歴史人物解説記事の執筆などに取り組んできました。現在は韓流サイト『ロコレ』で企画・取材・執筆・編集を精力的に行っています。韓国ドラマ以外の趣味は居酒屋めぐり、温泉探訪、妖怪研究などです。